今日の理事長(駐車場の戦い)

専用駐車場と副理事長と、長年の静かな戦い

マンション管理会社のフロントとして担当して三年。 このマンションの理事会には、他ではなかなか見ない特徴がある。

——役員全員が外部所有者。

住んでいない。 現地の空気も、住民の生活リズムも、日々の小さな不便も知らない。 それでも、理事会は毎月きっちり開催される。

そして、毎回のように議題に上がるのが、 専用駐車場の外部貸し出し問題だ。

専用使用権付きの駐車場が数戸だけ存在し、規約では外部貸し出しは禁止。 しかし実態は——こっそり貸している住民がいる。

そして、その事実を誰よりもよく知っているのが理事長だ。

なぜなら、理事長自身も専用駐車場を持っているからだ。 ただし、理事長は規約を守って貸していない。 貸したい気持ちはあるが、理事長という立場上、堂々とはできない。

しかし最近、理事長は私にこう漏らした。

「もう理事長やめようかな。辞めれば貸せるだろ?」

私は思わずペンを落としそうになった。

(そこまで…?)

理事長の本音は単純だ。 規約を守る“模範的な理事長”でいたい気持ちと、 空いている駐車場を貸して収入を得たい“ひとりの所有者”としての気持ち。

その狭間で揺れ続けている。

一方、副理事長は専用駐車場を持っていない。 だからこそ、規約遵守の姿勢が強い。

今日の理事会でも、副理事長が淡々と切り込んだ。

「専用駐車場の外部貸し出しは禁止です。規約に従うべきです」

正論だ。 正論すぎて、理事長の表情がわずかに固まる。

私は議事録を取りながら、 (この空気、またか…) と心の中でため息をついた。

理事長は静かに反論する。

「規約を見直すという選択肢もあるのでは? 現状、実態と合っていませんし」

すると、副理事長はすかさず返す。

「理事長が貸したいから規約を変える、というのは違いますよね」

理事長の胸に突き刺さる一言。 私は横で、空気の重さを肌で感じていた。

しかし、この問題はもっと根深い。

・役員全員が外部所有者 ・現地の生活実態を知らない ・専用駐車場は一部の住戸だけ ・規約は外部貸し出し禁止 ・実態はこっそり貸している住民がいる ・理事長は規約を守っているが、本音では貸したい ・副理事長は規約遵守派 ・理事長は貸すために理事長を辞めようとしている ・管理会社としては規約に従うしかない ・しかし実態を無視すると住民の不満が溜まる

この“ねじれ構造”が、毎年のように理事会で再燃する。

今日の理事会も、結論は出なかった。

ただ、フロントとして確信していることがある。

——この問題は、規約改正か、理事長交代か、どちらかが起きない限り終わらない。

理事長は、規約を守る“正しい人”でありながら、 本音では貸したい“生活者”でもある。

副理事長は、規約を守る“正義の人”でありながら、 専用駐車場を持っていない“利害の外側の人”でもある。

そして私は、その間で揺れる空気を毎月吸い込みながら、 次回理事会の資料を淡々と準備する。

マンション管理とは、建物だけでなく、 “人間の感情と利害の調整”でもあるのだと、 今日もまた思い知らされた。

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