□今日の理事長 #001「駐車場の戦い」
——役員全員が外部所有者。
住んでいない。 現地の空気も、住民の生活リズムも、日々の小さな不便も知らない。 それでも、理事会は毎月きっちり開催される。
そして、毎回のように議題に上がるのが、 専用駐車場の外部貸し出し問題だ。
専用使用権付きの駐車場が数戸だけ存在し、規約では外部貸し出しは禁止。 しかし実態は——こっそり貸している住民がいる。
そして、その事実を誰よりもよく知っているのが理事長だ。
なぜなら、理事長自身も専用駐車場を持っているからだ。 ただし、理事長は規約を守って貸していない。 貸したい気持ちはあるが、理事長という立場上、堂々とはできない。
しかし最近、理事長は私にこう漏らした。
「もう理事長やめようかな。辞めれば貸せるだろ?」
私は思わずペンを落としそうになった。
(そこまで…?)
理事長の本音は単純だ。 規約を守る“模範的な理事長”でいたい気持ちと、 空いている駐車場を貸して収入を得たい“ひとりの所有者”としての気持ち。
その狭間で揺れ続けている。
一方、副理事長は専用駐車場を持っていない。 だからこそ、規約遵守の姿勢が強い。
今日の理事会でも、副理事長が淡々と切り込んだ。
「専用駐車場の外部貸し出しは禁止です。規約に従うべきです」
正論だ。 正論すぎて、理事長の表情がわずかに固まる。
私は議事録を取りながら、 (この空気、またか…) と心の中でため息をついた。
理事長は静かに反論する。
「規約を見直すという選択肢もあるのでは? 現状、実態と合っていませんし」
すると、副理事長はすかさず返す。
「理事長が貸したいから規約を変える、というのは違いますよね」
理事長の胸に突き刺さる一言。 私は横で、空気の重さを肌で感じていた。
しかし、この問題はもっと根深い。
・役員全員が外部所有者 ・現地の生活実態を知らない ・専用駐車場は一部の住戸だけ ・規約は外部貸し出し禁止 ・実態はこっそり貸している住民がいる ・理事長は規約を守っているが、本音では貸したい ・副理事長は規約遵守派 ・理事長は貸すために理事長を辞めようとしている ・管理会社としては規約に従うしかない ・しかし実態を無視すると住民の不満が溜まる
この“ねじれ構造”が、毎年のように理事会で再燃する。
今日の理事会も、結論は出なかった。
ただ、フロントとして確信していることがある。
——この問題は、規約改正か、理事長交代か、どちらかが起きない限り終わらない。
理事長は、規約を守る“正しい人”でありながら、 本音では貸したい“生活者”でもある。
副理事長は、規約を守る“正義の人”でありながら、 専用駐車場を持っていない“利害の外側の人”でもある。
そして私は、その間で揺れる空気を毎月吸い込みながら、 次回理事会の資料を淡々と準備する。
マンション管理とは、建物だけでなく、 “人間の感情と利害の調整”でもあるのだと、 今日もまた思い知らされた。