マンション管理組合の役員は、ほとんどが専門知識を持たない“素人の住民”だ。善意で動いていても、結果としてマンション運営を悪化させてしまうケースは少なくない。私は現役フロントとして数多くの理事会を見てきたが、そこで繰り返される典型的なミスには、共通する理由と改善策がある。
まず最悪なのは、専門知識ゼロのまま独断で判断してしまうパターンだ。「この工事は高いからやめよう」「この見積は不要だ」「前の理事長がこう言っていた」など、根拠のない判断が平気で行われる。マンション管理は建築・設備・法律・会計が絡む専門分野であり、独断は修繕の遅れや無駄な支出、トラブルの長期化を招く。判断する前に必ず根拠を確認し、フロントや専門業者の意見を聞き、過去の議事録や長期修繕計画を参照することが欠かせない。善意であっても、独断は“事故”になる。
次に多いのが、議論ばかりで何も決めない理事会だ。「次回に持ち越しましょう」「アンケートを取ってから」「もっと資料を集めてから」と先延ばしが続き、気づけば数ヶ月が過ぎている。決めないことは、修繕の遅れ、費用の増加、住民の不満、そして管理会社の業務停滞につながる。議題ごとに決定期限を設定し、必要な資料は事前共有し、理事長が議論を整理することで“決める理事会”に変わる。決めない理事会は、マンションを確実に劣化させる。
また、管理会社を“敵”だと思い込む理事会も少なくない。「管理会社は儲けたいだけ」「全部疑ってかかるべき」「フロントは信用できない」といった姿勢は、運営を崩壊させる。確かに管理会社にも都合はあるが、敵視すれば情報共有は進まず、提案は出なくなり、トラブル対応も遅れる。適度な距離感で協力関係を築き、見積は透明性を求め、フロントの説明責任を明確にすることで、健全な関係が保たれる。管理会社は“使う相手”であり、敵にすると損しかしない。
さらに、任意団体の意見を理事会より優先してしまうケースも多い。自主防災会や有志の会、住民サークルなどの意見が強くなると、理事会の決定権が崩れ、住民が混乱し、トラブルの火種になる。決定権は理事会にあることを明確にし、任意団体の活動範囲を文書化し、議事録で線引きを示すことが重要だ。任意団体が強くなると、マンション運営は必ず歪む。
地味に多いミスが、議事録を軽視することだ。議事録が簡素すぎたり、決定事項が書かれていなかったり、担当者が不明だったりすると、次期役員が困り、トラブル時の証拠も残らず、管理会社との認識ズレが起きる。決定事項は必ず明文化し、期限と担当者を明記し、住民へ公開して透明性を確保することが必要だ。議事録はマンションの“歴史書”であり、軽視すると未来が困る。
また、住民の“声の大きい人”に引っ張られる理事会も危険だ。クレーマー気質の住民、自分の利益を優先する住民、SNSや掲示板で騒ぐ住民などの意見を優先すると、公平性が失われ、他の住民が不満を持ち、理事会の権威が落ちる。個別の要望は理事会で判断し、感情ではなくルールで対応し、フロントと連携して窓口を一本化することが重要だ。声の大きさと正しさはまったく別物だ。
最後に盲点となるのが、長期修繕計画を読まないことだ。これを無視すると修繕の優先順位を誤り、予算の使い方がズレ、10年後のリスクを見落とす。長期修繕計画はマンションの“未来予測図”であり、読まない理事会は未来を見ていない。毎年必ず確認し、修繕委員会を設置し、専門家に見直しを依頼することで、資産価値を守ることができる。
結局、役員のミスは悪意ではなく“情報不足”から生まれる。フロントの説明、過去資料の共有、専門家の意見、透明性のある議論。この四つが揃えば、理事会は驚くほど良くなる。

□運営者プロフィール
KADO|現役マンション管理フロント
✔ 管理業務主任者(実務者)
✔ 宅地建物取引士(売却領域)
✔ 第二種電気工事士(設備修繕)
✔ 一級建築士挑戦中(構造専門)
✔ 年間約30回理事会参加